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東京高等裁判所 昭和61年(ネ)2691号 判決 1988年7月26日

控訴人

富士信用金庫

右代表者代表理事

控訴人

株式会社静岡相互銀行

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

堀家嘉郎

控訴人両名補助参加人

Z1

Z2

Z3

Z4

右法定代理人親権者父

Z1

同母

Z2

右四名訴訟代理人弁護士

堀口嘉平太

河野光男

被控訴人

Y1

Y2

右両名訴訟代理人弁護士

弘中徹

主文

本件控訴をいずれも棄却する。

控訴費用中補助参加により生じた部分は控訴人ら補助参加人らの負担とし、その余は控訴人らの負担とする。

理由

一  被控訴人らと控訴人らとの間に本件各預金が存在することについては当事者間に争いがない。

二  被控訴人らは本件各預金の預金者はCであると主張するので検討する。

1  まず≪証拠≫によると、本件各預金は、Cが各口座名義人名で預け入れたこと、預入手続自体もC自身がしたものが多いが、補助参加人Z2がした場合もCの依頼により同人の使者としてしたにすぎないことが認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

2  ところで被控訴人らは、本件各預金の出捐者はCであると主張し、控訴人らはこれを争うので判断する。

≪証拠≫並びに弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められ、右Z1及びY1の各供述中右認定に反する部分は、右各証拠に対比して措信し難く、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

(一)  Dは、戦前から現在地でaラジオ店を開設して家庭電化製品の販売、修理業を営み、昭和一五年に結婚した妻Cは夫の営業を手伝つてきた。補助参加人Z1は電気関係の技術学校で学び、昭和三五年ころから家業を手伝つたが、先妻EとCが不仲であつたこともあつて昭和四〇年ころに別居した。その後被控訴人Y1が家業を手伝つたが、同人も昭和四五年ころ家を出たので、再び補助参加人Z1が家業に従事することになつた。

(二)  Dが昭和四五年一一月一日に死亡した後、aラジオ店は、C、補助参加人Z1とその妻(昭和五三年一〇月四日離婚するまでは右E、再婚後は補助参加人Z2)によつて運営されることになつた。Cは商品の仕入れと店番とを分担し、電化製品に関する知識技能を有している補助参加人Z1は修理、取付工事及び店外の販売を担当し、その妻は帳簿の記帳、整理を担当する傍ら店番をすることもあつた。

Cは多年一貫してaラジオ店の営業に関与し、経験と実績を有する者であり、補助参加人Z1夫婦と共に営業を行うようになつたのちも、現金出納を管理し、同補助参加人夫婦には月給を支給して営業利益を自らの手に収め、その処分を自分の意思で行つており、店舗を兼ねた住居建物はCの所有であつて、所得税の申告もCを事業主としてされていた。

(三)  補助参加人Z1は、再び家業に従事するようになつてからも、Cと同居しないで通勤し、Cから支給される給与を生計費としていたが、Cが病気がちになつた昭和五四年ころから初めて同居するようになつた。

(四)  Dの遺産分割は、昭和五六年ころにようやくされ、補助参加人Z1が将来aラジオ店を継承していくという前提で住居兼店舗の敷地(隣家との共有)の持分権を取得し、被控訴人ら及びFは金員を取得した。

右認定事実によると、Cは多年一貫してaラジオ店の営業に関与し、その店舗建物を所有するとともに、自らを事業主として所得税の申告をし、また営業利益の処分権限を有していたのであるから、aラジオ店は、Cが経営し、その収益はCに帰属するというべきである。確かにaラジオ店の営業面は、補助参加人Z1の復帰後は主として補助参加人Z1が担当し、また同人の受けていた給与は必ずしも担当業務に十分応じたものといえない一面があるとしても、一定額の給与を得ており、経営の全般を掌握していたのではないから、前説示を左右するものではない。

そして本件各預金が、どの年度の収益によるものであるかは明らかでないが、前掲各証拠によると、Cはaラジオ店の売上金で預金をしていたことが認められるから、本件各預金の出捐者はCであるとみるべきである。

以上によれば、本件各預金の預金債権者はCであつたといわざるをえない。

三  進んで、補助参加人らの主張について順次判断する。

1  本件各預金の出捐者が補助参加人Z1であるとの主張(一)の肯認できないことは前示のとおりである。

2  本件各預金がC、補助参加人Z1及び同Z2の構成する組合の財産であるとの主張(二)について考えてみると、本件全立証によつても、右三名の間に組合契約が成立したと認めるに足りず、右Z1夫婦がaラジオ店の業務に従事し、とくにZ1が多大の貢献をしていたものではあるが、なおaラジオ店はCの経営する個人企業というべきであることは前示のとおりであり、Cと右Z1夫婦間に一種の組合関係が生じたとまで解することは到底できないから、右主張も採用できない。

3  本件各預金は遺産分割手続によるべきであるとする主張(同(三))については、本件各預金債権は可分債権であるから、Cの死亡に伴い当然に被控訴人ら各相続人が、相続分に応じて右預金債権を承継するものであり、控訴人らに対して自己の債権を行使することは妨げられないというべきである。ある相続人の寄与分が大きい場合には、その相続すべき財産に可分債権である遺産が計数的に取り込まれることが予想されないではないが、当該相続人の相続分を保全する方法がないわけではないから、この一事をもつて右主張に左袒することはできない。

4  相続預金の払戻しに関する銀行実務上の慣習を援用する主張は(四)は、それ自体十分な根拠を有するものとはいえない上、その前提とするCの右慣習による意思の存在を認めるに足りる証拠はないから、これを採用することはできない。

5  Cが本件各預金のうち(一)の(3)ないし(8)及び(二)の預金を死因贈与したとする主張(同(五))については、本件全立証によつてもその事実を認めるに足りない。

6  相殺の主張同(六)は、その自働債権が補助参加人Z1のCに対する立替金債権であり、受働債権はCないしこれを承継した被控訴人らの控訴人らに対する債権であつて、相互に相対立するものではないから、主張自体失当である。

四  ≪証拠≫によると、Cは昭和五七年九月一五日に死亡し、同女の相続人は子である補助参加人Z1、被控訴人両名及びFの四名であることが認められる。

そうすると、被控訴人らの相続分は四分の一であるから、被控訴人らは本件各預金につき四分の一ずつを相続により取得したことになる。

五  以上の次第により、被控訴人らの請求を認容した原判決は相当であり、本件控訴は理由がない。よつて本件控訴をいずれも棄却

(裁判長裁判官 丹野達 裁判官 加茂紀久男 新城雅夫)

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